Viola Dream II

壱岐ウルトラマラソン(第2回): 完走記



 朝3時前に起床。昨年の四万十川ウルトラマラソンの時と同じように、ホテ
ルで借りたポットのお湯をこれもホテルで借りた茶碗に入れ、長女が前日に
作ってくれた餅を浮かべて朝食。早々にトイレにも行き、準備万端。ホテル
の送迎車で壱岐ウルトラマラソンのスタート会場へ連れて行ってもらいまし
た。天気は曇りで特に寒くはありませんでしたが、阿蘇での失敗に懲りた私
はスタート3分前まで室内で待機。ほぼ最後尾からのスタートでしたが、参
加者が700人ほどなので号砲から1分ほどでスタート。

トンネル以外は、明かりの少ない道を走ります。コース脇にはライトが設置
されていましたが、足元が良く見えないところもあり、ヘッドライトを装備した
ランナーに付いて走らせてもらいました。6時を過ぎると空が明るくなってき
て足元の心配はいらなくなりましたが、台風21号の影響でとにかく風が強
い! 平坦な道で前方のランナーが全員歩いているのを不思議に思いなが
ら、自分がその位置まで行くと納得。あまりに強い向かい風で、歩くのがや
っと。島の北側へ向かう前半は、この北風の強さに四苦八苦。緩い下り坂で
も登りに感じるくらいの風、風、風。海岸沿いの道はその風がまともに吹き
付けてくるので、もう大変。壱岐の海岸はまさに絶景ポイントでもあるのです
が、横風に煽られてまっすぐ走れない上、風上側の足が流されて反対側の
足を蹴りまくる始末。飛んでくる波しぶきでメガネが曇って見えにくくなるし、
砂浜の近くでは容赦ない砂粒攻撃! 平坦な道が少ないハードコースとの
情報でしたが、アップダウンを気にする余裕もない程の強風で、前半35qを
過ぎるころには両足ともにかなりのダメージを負っているようでした。

 今回のウルトラマラソンには一つ大きな不安がありました。2007年からラ
ンニングを初めて10年。練習の際、大会出走後などを除き、昨年までは1キ
ロ5分を越えることはありませんでした。それが今夏、何度も1キロ5分以上
かかってしまう日があり、平均速度も明らかにこれまでより遅くなっていまし
た。52歳。何とか維持してきた(つもりの)体力が、ついに維持できなくなって
しまったのか。それを確かめるための大会でもあったのです。

 50qまでは抑えて走る作戦のはずが、北風の強さに闘争心を煽られた
か、予定より40分も早いタイム。その代償として、左足の太腿裏と膝、右足
首に強い痛みが発生。30q過ぎからすでに痛みはあったのですが、向かい
風の強さに対抗すべく無理をした結果と言えます。ただ、筋肉の痙攣は一
切ないことが救いでした。完走最優先で安全策を取るか、12時間切りを狙う
のか。冷静に考えるとこの状況下で12時間切りは難しいと思ったものの、諦
めきれない心。

 昨年私が四万十川ウルトラマラソンを走った時にサポートしてくれたNKG
君を応援するために、ちょうど1週間前、今年は私がサポートに回りました。
その際、NKG君に私が言った言葉。「ウルトラマラソンなんだから、脚が痛く
て当たり前。脚が痛くて走れないのは脳のウソ。痛いのが何だ!の気持ち
で走らないとダメ!」。うーん、確かにそう言ったよね。で、自分の時はどうす
るの? リスク覚悟で、上り坂は得意の早歩き、下り坂は足の痛みをこらえ
て走るしかないでしょ! 65qくらいから右の腰にも痛みが出てきました。も
う限界かも…。ああ、そう言えば、NKG君にはこうも言ったよね。「ウルトラマ
ラソンは60qからが勝負。辛いのは85qまで。ここが踏ん張りどころだよ。
後は何とかなる!」。うーん、確かに…。

 66.6qの原の辻ガイダンスを前に、持参した食料はほぼ使い果たしていま
した。エイドステーションでは、好きではないソーメンでしたがボランティアの
お姉さんから勧められるままに食べてみると…。濃い目の出汁がおいし
い! これでまた少し元気が出て、あと4時間、とにかく痛みに耐えるぞ! 
そう自分に言い聞かせながら、走りました。この時、本当に助けになったの
は沿道の応援の多さです。自宅の窓から、庭先から、車の窓を開けて、農
作業の手を休めて。700名ほどのランナーのために、島のたくさんの人が応
援してくださっていました。手を振り返したり、「ありがとう! 頑張りま
す!!」と大きな声でお礼を言う時だけは、足の痛みを忘れることができま
した。

 あと3時間…。あと2時間…。時間はじれったいほどゆっくりと、でも確実に
進んでいきます。1キロ毎に立てられたのぼりにも勇気づけられました。100
キロは1キロの積み重ね。1キロは1歩の積み重ね。前へ、前へ、ひたすら前
へ。35q過ぎから足を引きずるようにして走ったため、シューズの裏、踵の
あたりが地面に引っかかるような音を立て、めくれあがっているようでした。
ゴメンね、ちゃんと走れなくって。シューズに詫びながら、とにかく前進。

 マリンパル壱岐を過ぎると、またまた激しいアップダウン、そして文字通り
コース最大の山場である若松触の峠を越えます。冷たい雨が降ってきたの
で準備しておいたゴミ袋カッパを着ました。雨と強い風は、痛みに苦しむ私
の足へのコールドスプレーのように感じられました。
 あと4q。左膝にこの日最大の痛みが走って一瞬、ヒヤリ。反射的に時計
を見て、ビックリ。昨年の四万十川ウルトラマラソンで出した自己ベストを更
新できる可能性が。こうなったら最後の1.5qは必死です。上りも下りも痛み
も、もう関係なし。

 郷ノ浦大橋を越えてトンネルに差し掛かると、ゴール地点のアナウンスが
聞こえてきます。雨はほとんど止んでいたので、ここで走りながらゴミ袋カッ
パを脱いでポケットに収納。帽子をかぶり直してラストラン。司会の石原早
百合さんと笑顔でハイタッチ、そしてゴール! その瞬間、何かを叫んだよう
に思いますが記憶が曖昧です。11時間43分26秒。自己記録を5分更新で
す。

 雨に濡れた身体を冷やさないようすぐに着替えてから、柔らかめに炊かれ
た小さなおにぎりと温かいお味噌汁をいただきました。お金も携帯電話もホ
テルに置いたままだったので、とりあえずホテルへ戻りました。玄関を入ると
ホテルの人が3人。「完走できました!」の私の報告に、「おめでとうございま
す!」と言ってくれましたが、すぐに真顔になって、「今すぐ荷物をまとめて!
 今なら最終のフェリーに間に合います!」 はぁ? 今夜も泊まる予定なん
ですけど? 聞けば台風21号の接近で、明日の船は全便欠航が決まったと
のこと。状況を良く理解できないまま、ウルトラマラソンの荷物入れ袋に背広
の上下とビジネスシューズを入れて、ホテルの車で郷ノ浦港へ。何とか船に
間に合いました。
 船中で博多の宿を予約し、2等船室の床に横になりホッとしたのもつかの
間、船客約700名と80台の車両を積載できるそこそこ大きなカーフェリーでし
たが、乱気流を飛ぶ飛行機のごとく上下に揺れます。枕元に置いた2Lのペ
ットボトルのお茶が倒れるほどの振動。おまけに何か壊れたんじゃない
の!?と思うほどの轟音。船で怖いと思ったのは初めての経験でした…。

 結局、壱岐から博多への船は月曜の午後まで欠航が続いたようです。ホ
テルのスタッフのお蔭で、私は関西での月曜の朝からの仕事にも支障なく
行くことができました。ホテルアイランド壱岐の皆さん、本当にありがとうござ
いました。想像した以上のハードコースで猛烈な風の中、12時間以内に完
走できたのは壱岐の皆さんの応援のお蔭です。最後の1時間は、雨と風が
私を助けてもくれました。壱岐の自然にも感謝! そして毎度のことです
が、キツイ練習を支えてくれた家族にも感謝です。

 下の写真は左から、参加賞のTシャツ、完走メダルです。メダルは紐の部
分が牛革のようです。壱岐牛なのでしょうね。ところで、今回はゴールシーン
の写真がありません。公式カメラマンは15時前に島から撤退したんですって
…。そりゃないでしょっ!
      

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