Viola Dream II

赤穂ウルトラマラソン(第15回): 完走記




 2007年10月の四万十川ウルトラマラソン完走からおよそ3年半が過ぎた、
2011年5月22日。私は一人、兵庫県赤穂市で行われた第15回赤穂ウルトラ
マラソンのスタート地点にいました。四万十川ウルトラマラソンで痛めた右膝
の回復具合をみて、これからもウルトラマラソンに挑戦できるのか確かめる
ことが、今回の目的でした。参加者はおよそ50名。今にも降り出しそうなど
んよりとした曇り空の下、朝の5時。第15回赤穂ウルトラマラソン100kmの
部、スタートです。

 赤穂ウルトラマラソンは、海岸近くの赤穂海浜公園の中を走ります。コー
スは緩やかなアップダウンがあるものの、ほぼ平坦です。路面は全て舗装
路。木陰を走るところもありますが、大部分は広い空を感じられるコースでし
た。1周5kmですから、100kmの場合は20周走ることになります。ゼッケンの
端には20枚の"ふだ"が付いており、1周ごとに切り取って箱に入れます。こ
れによって、自分が今、何周目なのかがわかるようになっていました。また、
ゼッケンに取り付けられたICタグで各ランナーの周回数がチェックされてい
るので、自分が何周走ったかわからなくなっても大丈夫。計測器のスタッフ
に訊けば教えてくれます。

 さて、最初の1周目は、給水時間を含めて28分で走りました。2周目、3周目
は27分。4周目は28分。計画通りのペースです。私は前の晩からJR播州赤
穂駅から徒歩10分ほどのところにあるホテルに宿泊し、朝(夜?)2時過ぎに
起床しました。朝食には、おにぎり2個、まるごとバナナ1個、アメリカンチェリ
ー1パックを食べました。ちょっと少ないかなと思ったのですが、あとはエイド
ステーションで補給する予定でした。エイドステーションでは、7時頃から食
事が出されることになっていました。これが大誤算。確かに案内文書には"
軽食"と書いてありましたが、置いてあるのは、飴、梅干、塩、ポテトチップス
…。途中からオレンジ、バナナ、小さなおにぎりも出てきましたが、あてにし
ていた私は困ってしまいました。手持ちのゼリー飲料2個は30kmまでに全部
食べてしまい、お腹が空いてきました。

 さらに悪いことに、30kmの手前くらいから降り始めた雨はその後、一時土
砂降りになりました。簡易雨具を準備していたのですが着る間もなく、ずぶ
濡れに。また、最初は水溜りを避けて走りましたが、そのうち道が川のよう
になってしまい、どうにもなりません。雨で重くなるシューズ、冷えていく体。
35kmを過ぎたところで足の筋肉が攣り始めました。足の裏と甲、すねとふく
らはぎ、太ももの表と裏。しかも両足。攣った筋肉を伸ばそうとすると反対側
が攣るので、対処のしようがありません。心配していた右膝にも痛みが出て
きました。

 次第に痛みが増す右膝、時折痙攣する両足、そしてハンガーノック。とうと
う、私は45kmの手前で立ち止まってしまいました。もう折れることなど無いと
信じていた心が、諦めていました。このままリタイア。その場に座り込みたい
気持ちでした。私にはウルトラランナーの資格など無い、四万十川ウルトラ
マラソンで完走できたのは、まぐれに過ぎない。これが現実だ。打ちひしが
れた心には、のどかな公園の景色が空虚に映りました。今頃、妻は赤穂に
向かう列車の中だろうか…。実は今回初めて、妻が応援に来てくれることに
なっていました。妻は食料などを持って昼頃に到着する予定でした。せっか
く来てくれるのに。せめて妻が来るまでは、頑張るべきだろう。そう思った私
は再び、とぼとぼと歩き始めました。自分のふがいなさに涙がにじみます。
強い怒りがこみ上げてきて、次の5kmは少し走れました。しかし、50kmを越
えて再びペースダウン。もう間に合わない。そう思いました。

 ちょうど12時に12周を終え、ようやく60kmまで来ました。応援の人の中に
妻の顔が見えます。私は倒れこむようにベンチに座り、妻にリタイアすること
を伝えました。そして、とりあえず、妻が持って来てくれた食料を食べること
にしました。缶ミカン状態まで剥いた伊予柑1個、ゼリー飲料2個、アサリの
味噌汁。近くにいたスタッフにリタイアを申告すればよかったのですが、ふら
ふらと立ち上がった私は、そのままコースに戻ってしまいました。もう1周だ
け走ってから、リタイア。そんな気持ちだったのでしょうか。しばらくすると、
食べたことで体にエネルギーが、ほんの少しですが沸いてきました。でも、
両足の痙攣が回復しないために、まともに走ることができません。精一杯の
早足で歩き続けました。それからは1周ごとに、私が食料を食べている2-3
分の間、妻が足をマッサージしてくれました。食べてマッサージの後は数分
間ですが、走ることができました。もう時間との戦いです。これ以上、足にト
ラブルが発生すれば、制限時間に間に合いません。ぎりぎりのスピードで周
回を重ねます。75km、80km、85km。最終完走者でも良い、とにかく完走した
い。心からそう思いました。

 気が付くと、いつの間にか折れた心が戻ってきていました。いや、確かに
折れてはいたのですが、そこには添え木と包帯がしてありました。あと
10km。ちょうど午後5時。残り2時間です。焦る気持ちを抑えて、ペースを維
持。そしてラスト1周。残り1kmあたりからは、最後の力を振り絞って走りまし
た。午後6時38分、ようやくゴール。完走者34名のうち、私は30番目のゴー
ルでした。

 会場から徒歩5分ほどのところにある赤穂パークホテルの温泉で汗を流
し、ホテル内のレストランで妻と夕食をとり、午後8時半の列車で滋賀へ帰り
ました。帰宅してから体重をはかってみると、3kg減っていました。レース中
に私が食べたものは、ゼリー飲料9個、伊予柑1個、味噌汁3杯、飴2個、オレ
ンジ2個、バナナ1本。今回、いつものように私一人で行っていたら、あのま
ま45kmでリタイアしていたことでしょう。完走できたのは間違いなく、妻のお
かげです。
 

 今回履いたシューズは、ニューバランスのMR967(上段左側)。足首のホ
ールド感は良いのですが、クッションが硬めで重いのが難点でしょうか。そ
れでも、最後まで私の足を支えてくれました。ゴールの写真は、普段カメラを
使ったことの無い妻が撮影したので、ピンボケです(上段右側)。下段左側
の写真はゼッケンです。20枚の"ふだ"が全て切り取られている状態です。
下段右側の写真は参加賞のTシャツです。ポリエステル製の速乾タイプのも
のですが、ちょっと地味な感じですね。
 

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