Viola Dream II

第28回野辺山: 完走記




 早朝2時半、私はレンタカーで妻と二人、時折強く雨が降る濃い霧の中、野
辺山ウルトラマラソンのスタート会場である南牧村社会体育館へ向かってい
ました。朝には上がると思っていた雨は予想以上に降っており、気が滅入っ
てきます。雨の中、妻を会場近くで降ろしてから、私は細くて曲がりくねった
道を100qの部参加者用の駐車場である旧野辺山スキー場へ。バスに乗っ
たら再び、スタート会場へ戻ります。スタート会場に着く頃になると雨はほと
んど止んでいましたが、阿蘇カルデラスーパーマラソンでの失敗を繰り返さ
ぬよう、スタート直前までランニングウェアの上からジャージを着て防寒対
策。空は厚い雲で覆われていましたが、スタートの5時が近づくにつれて明
るくなってきました。会場を盛り上げる女性司会者のしゃべりが長過ぎたの
か、村長の挨拶は30秒しかなく、挨拶の途中でスタートの号砲! ほぼ最前
列の私は妻に見送られて、100qの旅、始まりです。
 
 スタートしてから最初の5qほどは野辺山宇宙電波観測所の周りを走りま
す。雨は降っていませんでしたが、濃い霧で周囲の景色がほとんど見えま
せんでした。これはちょっと残念。ぐるっと回ってJR小海線の野辺山駅近く
の踏切でもう一度妻に手を振って、いよいよ八ヶ岳横岳中腹へ向かいます。
徐々に登りになる道は、じきに未舗装路になりました。未舗装路を走るのが
初めての私は、ここで妙にテンションが上がってしまいました。かなりの登り
坂にも関わらず、ガシガシ走りました。少し無理が過ぎたのか、太もも裏に
痛みが出てきて少しペースダウン。左膝がふわふわした感じになってきて、
まずい状況であることに気が付きます。下りに入ると不安は的中。左膝の痛
みが増してきて、ペースが大幅ダウン。未舗装路に慣れていないことでラン
ニングフォームが崩れ、膝が左右にぶれた状態で走ったことが原因のよう
でした。おまけに下り坂では自分が蹴った小石が足の甲や脛に当たって痛
いのなんの! 35qの稲子湯に着いた時には、もうまともに走れる状態で
はありませんでした。正直、ここで一瞬だけリタイアが頭をよぎりました。35
qでリタイアなんてあり得ない、そうN先生に言ったじゃん! 火曜から宮崎
県・鹿児島県へ出張なのに皆にどんな顔で報告するの? リタイアなんかし
たら月末のR大での講義で学生さんに夢や将来を語る資格ある? NO!!! 
2014年のえちご・くびき野100qマラソンでも後半50qをほぼ早足で歩き通
したことがあったはず。残り時間は10時間と少し。1走って10歩く、の繰り返
しで前進です。
 左手に松原湖が見えてくると、長い長い下りもようやく終わりです。山中で
はずっと霧雨で、眼鏡が濡れて視界も悪かったのですが、集落に入ると予
報通り晴れてきました。46qの八那池地区のエイドでは、予定通り妻が待っ
てくれていました。野辺山駅の踏切で分かれてから5時間弱、運転免許を持
っていない妻はJRとバスでの移動です。待っている時間はさぞ長かったこと
でしょう。満足に走れない私は、妻が持参した冷却スプレーで患部を冷や
し、ゼリー等を食べて再スタート。次の合流地、川又バス停へと向かいまし
た。
 11:21、54q地点の川又バス停に着きました。しかし、妻の姿が見当たり
ません。小海駅から妻が乗るバスは11:29着予定だったので、私の方が少
し早く着いたようです。この場合は63q地点の日向区看板前のエイドで落ち
合うことになっていました。ところが。川又バス停のある三叉路を左に曲がっ
て400mほど坂を上ると日向区看板前のエイドですが、ここにも妻の姿はあ
りませんでした。これには私も焦りました。昨日は雨だったので、野辺山観
光を中止して妻との合流場所の下見を済ませていました。列車やバスの時
刻も確認済みです。川又バス停の三叉路は北相木村への道の見通しが悪
いので、日向区看板前のエイドへ向かう際は注意して横断するよう指示して
いました。まさか事故? なんだか悪い予感がしてきます。川又バス停に引
き返して妻を探すか? 今の私にはあまりに大きなロスタイムになるでしょ
う。救急車やパトカーがいた形跡は無い。前進を決意しました。
 とは言え、やはり妻が心配でなりません。事故でなければ何かヘマをした
に違いありません。心配性の妻はひどく落ち込んでいるかもしれない。もし
私が完走できなければ、尚更です。万一の場合に備えて、携帯電話を持っ
ていない妻には私のスマートフォンを持たせて、私自身はテレホンカードを
持って走っていました。どこかに公衆電話があるはず。とにかく急ごう! 67
q地点の南相木小学校には公衆電話があるはずですが、沿道から見えな
かったのでパス。68q地点の南相木村役場。ありました! 役場の入口に
緑の公衆電話。すぐに電話を掛けてみましたが、妻は出ません。少し時間を
空けてもう一度。やっぱり出ません。昨日、簡単に使い方を教えたはずです
が、マナーモードにしてあるので気が付かないのかも。ますます不安になり
ましたが、意を決して前進。早く、少しでも早く進まなければ!
 結果的にはこのトラブルが功を奏したようです。不安に思う気持ちが左膝
の痛みに優り、前進する力となりました。少しでも痛みが無いときは数メート
ルでも走る。妻はきっとJR信濃川上駅近くの89q地点で待っているに違い
ない。そう信じて進みました(走れないの…)。68qから先は馬越峠のきつ
い登りでしたが、早足で歩き続けました。79qからの急な下り坂も痛みに耐
えて急ぎました。千曲川に沿って進み、16:21、87q地点の川上村原公民館
に到着。あと2qで妻との合流地点です。思い切ってマイボトルを空にして、
食料の補給もせずに進みました(焦るけど走れないの…)。
 妻との合流地点、県道68号線からレタス街道への交差点が見えてきま
す。しかし、妻の姿は見えません。これはまずい。やっぱり何かあったん
だ! 大変な事態になったようです。しかも、私のポケットにはもう食料もな
い。どうしようか? レタス街道への橋を渡ると私設エイドが見えました。給
水だけでも、と思ったその瞬間。原宝石材の小屋の横に妻の姿が! 川又
バス停では欲張って54qと63q地点の両方で私と合流しようとして失敗し
たこと、周囲の人に頼んで私の走行位置をWEBで確認させてもらったこと等
を聞きました。そう言えば昨夜、寝る前に今大会はランナーの通過情報をラ
ンナーズアップデートサービスで閲覧できることを確認していました。それに
しても本当に焦りましたよ…。時は既に17時前。あと2時間。残り10q。歩い
ても間に合うと思われましたが、今夜の宿の食事時間が気になります。少し
でも早くゴールしよう。目標を18時半に設定し、最後の力を振り絞って前進
です(やっぱり走れないの…)。
 97q地点でもう一度、妻と合流してミニトマトの補給を受けました。残り3
q。残念ながら18時半までのゴールはできませんでしたが、18:33、緑のテ
ープを切って完走です。ゴール後は完走メダルをもらい、妻に写真を撮って
もらいました。近くにいたランナーにお願いして(疲れていたでしょうに、あり
がとうございました!)、ゴール会場を背に夫婦で記念撮影。今回の完走を
サポートしてくれた妻に感謝。ところで、5月22日は私の父の命日でした。こ
れも何かの縁だったのでしょうか。尊敬する父に、心の中で合掌。レース中
に励ましあったりいろいろな情報をくださったランナーの皆様、エイドのボラ
ンティアの皆様や沿道で応援してくださった地域の皆様にも心から感謝で
す。今回履いたシューズは、ミズノのWAVE AERO 16 WIDEです。2019年6月
のいわて銀河100qチャレンジマラソン、2018年4月のチャレンジ富士五湖
ウルトラマラソンを走ったシューズです。3回のウルトラマラソン完走で、かな
りボロボロになってしまいました。完走を支えてくれたシューズにも感謝です
ね。
                
  
 
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