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Viola Dream II
私はお蔭様で健康な方である。このことはまず私の両親に感謝するべき
であろう。ただ、首から上はあまり自慢できるレベルではない。そんな中で 私は鼻には自信がある。形や大きさではなく、その性能、すなわち匂いを嗅 ぎ分ける能力に、である。
新婚旅行にはスイスとギリシャへ行った。往復の飛行機では、機内に漂う
匂いを頼りに機内食のメニューをずばり当てて妻を驚かせた。機内食は2種 類あって好みを選べるのだが、私の鼻はその2種類のメニュー両方を当てた のである。それも、機内食が出されるたびにほぼパーフェクトに当てたので ある。勤め先では研究所内の建物の中でなら、誰がいつ、どの方向へ向か って歩いたかもかなりの確立で判別できる。実験用の機械の故障なども匂 いで気がつくことが多い。子供の頃からそうであったが、今でも昆虫採集に 行くと、まず匂いで虫がいそうなところを探す。
鼻が利いて困ることもある。私は集中すると周りの騒音や振動は全く無視
できるのであるが、匂いはダメである。どんなに集中している時でも、タバコ や食べ物の匂いで簡単に集中が乱れてしまう。こんな時は鼻を鈍らせるた めに少々アルコールを飲むことにしている。アルコールは私の嗅覚を確実 に鈍らせる。従って、おいしいものを食べる時、例えば大好きなカニを食べ る時に私は決して酒を飲まない。味は舌だけでなく鼻でも感じるものだから である。
農薬の研究開発を仕事としているために、実験に有機溶媒を使うことが多
い。ある時、アセトニトリルという溶媒を使っていたが、これがまた実に甘い 匂いがする溶媒なのである。アセトニトリルは劇物であるが、あまりに良い 香りがするのでとうとう好奇心(誘惑?)に負けてなめてみることにした。な めて驚いた。苦いなんてものではない。舌がびりびりした。もう二度とごめん である。やはり、誘惑に負けるとろくなことがない。
毎度のことであるが前置きが長くなった。このコーナーはすみれに関する
エッセーを綴るコーナーである。ここからがすみれの出番である。さて、スミ レの花は私の鼻をもってしてもほとんど香りを感じることがない。ノジスミレ は別格であるが、野洲町のすみれの多くは花に鼻をくっつけるようにしても 香りを感じることが難しい。
植物の花が香りを発するのは、昆虫を呼び寄せて受粉を促すためであろ
う。そうすると、スミレは何故香りを必要としないのか。花の色や形だけで虫 たちを呼び寄せるに充分なのだろうか。シハイスミレのようにあまり見通し のきかない林の中で咲くものは、視覚より嗅覚に訴えた方が得策であると 思うのだが。それとも、閉鎖花で受粉して種子を増やすことが多いので、虫 たちをあまり必要としていないのであろうか。
私には二人の子供がおり、そのうちの一人は女の子である。娘を持つ父
親はだれでもそうであろうが、年頃になると娘に"悪い虫"がつかないか心 配になるようである。誰も寄り付かないようでも困るが、できることなら、スミ レのように必要以上に"虫"を呼び集めることがないよう祈るばかりである。
それにしても、ノジスミレの香りは素晴らしいと思う。春という季節に香りが
あるのなら、きっとノジスミレのような匂いがするに違いない。あの香りは女 性にぴったりの香水になるのではないだろうか。ノジスミレの花の香りの利 用方法をご存知の方がいれば、是非教えていただきたいものである。
2003年11月3日
https://ss295031.stars.ne.jp/
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