Viola Dream II

言うことを聞かないすみれ

 昨年の春にベランダの植木鉢で発芽したシハイスミレは、ついに花を咲か
せること無く枯れてしまった。子供達は勿論、私も大いにがっかりした。その
植木鉢には2粒の種子をまいたのだが、芽が出たのは一つだけであった。も
う一つの種子は死んでいるのかなと思っていた。

 ところが、である。今年の夏に二つ、その鉢にすみれらしきものが芽吹い
た。しばらく様子を見ていると、片方はスミレであった。どうやら隣でスミレを
育てていた植木鉢から、弾かれた種子が飛び込んで発芽したらしい。さても
う一方は、葉の形態や色からシハイスミレと推定された。昨年、発芽しなか
ったもう一つの種子が今になって発芽したようだ。

 『植物は人間と違って、素直なんですよ。手を掛けた分だけ応えてくれま
す。』 栽培好きな人が良く口にする言葉である。仕事柄、この言葉がある
程度本当であることは私自身、良く分かっているつもりであった。しかし、山
野草は必ずしもこの範疇に無いようである。それとも私がすみれたちの心を
充分に理解できていないだけなのか? そんなはずはない・・・、多分。い
や、そうかも・・・
 シハイスミレは私の気持ちなど素知らぬ様子で、植木鉢の隅っこで葉を伸
ばしている。私の記憶では、種子は鉢の真ん中にまいたはずなのに。全く言
うことを効かぬ奴である。

 白いアリアケスミレとその比較に採取したスミレも、似たような状況であ
る。白いアリアケスミレは、ベランダのサンダルに種子がくっついていたのだ
ろう。気がつくと春先に庭の畑のコンクリートブロックの脇で、涼しい顔?で
咲いていた。スミレは、植木鉢の隅っこで咲いていた小さな株を、庭に植え
替えた。それが、あれよあれよと言う間に、もの凄い勢いで葉を茂らせて鞠
状になった。今では以前植えられていた植木鉢よりも大きくなった。ホントに
言うことを効かぬ奴らである。

 花はしばしば女性に例えられる。私自身、すみれたちのことを『彼女たち』
と書くし、英語での表記もおそらく『she=彼女』であろう。花と女性。その共
通項とは何だろう。新しい生命を生むこと、魅力的であること、美しい時期は
短いこと。あるいは、気紛れなこと、見かけによらず逞しいこと、美しいもの
ほど棘の多いこと。うーん、やっぱり、すみれは気紛れで言うことを聞かぬ
のも当然か? いや、決して悪気はないのだけれど、後者の三点は皆さん
から非難を浴びそうな・・・ では違いは何か。花は賢明で沈黙を守るが女性
はおしゃべりであること、花は謙虚であるが女性は欲張りであること、花は
人を噛んだりしないが女性は時々噛みつくこと・・・

 話題がそれてしまった。このコーナーは女性を敵に回すことを目的にして
いるのではない。本題に戻ろう。

 『犬は飼い主に似る』 これもよく言われる言葉である。植物も同じなのだ
ろうか? もしかすると、私が育てているすみれたちは、私に似ようとしてい
るのか? だから言うことを聞かないのか? 密かに私はこの点を心配して
いる。と言うのは、私自身が『言うことを効かぬ奴』だからである。もう40歳に
なったことだし、少しはまあるくなって、皆の言うことを聞くようにすべきだろ
うか。庭や植木鉢のすみれたちを横目で見ながら、ちょっぴり反省する今日
この頃。

2005年10月10日

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